中小企業白書から読み解くM&A

広報室だより
更新日:

⽬次

[非表示]

中小企業の現状や動向を調査・分析する中小企業白書。毎年、閣議決定後に公表される白書は中小企業にとってバイブルとなっています。2021年版では、M&Aが大きなトピックスになりました。コロナ禍の対応策が特集された第2部「危機を乗り越える力」の中で、「事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用」が章立てされています。M&Aにおける意識調査や統計資料にはじまり、実際にM&Aを実施した企業事例と効果検証などが50ページ以上にわたり解説されています。第2部末尾では「事業承継は、企業が更に成長するための転換点と言える。M&Aもまた買い手・売り手双方にとって企業の成長につながる機会と言える。事業承継やM&Aを通じて、これまで企業が培ってきた経営資源を有効活用し、我が国の中小企業が更なる成長・発展を遂げることを期待―」と結ばれています。コラムでは中小企業白書で示されたM&Aのポイントを中心に解説します。

中小企業白書表紙

経営者にとってM&Aは身近な存在に

M&A件数は公表ベースで2012年から増加傾向が続いています。コロナ禍で2020年こそ前年を下回ったものの、2018年以降は年間4,000件前後で推移しています。同様に全国の事業承継・引継ぎ支援センターへの相談数と成約件数も年々増加しており、M&Aの認知度と関心度が高まっています。東京商工リサーチ「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」では、3割近い中小企業の経営者がM&Aの意向を示し、そのうち8割以上が買い手として希望している意識調査もあります。

マッチングにおける考え方の違い

買い手と売り手の希望先には若干の違いがあります。M&Aで希望する相手先企業の業種について買い手は、半数以上が同業種を希望し、業種関連ありを含めると9割を占めます。一方で売り手は異業種が半数近くを占めます。希望する相手先の所在地では、売り手意向の半数近くが国内全域を選択肢に入れる一方で、買い手意向を見ると同一都道府県または近隣希望が7割以上と違いが表れています。ただ相手企業の探し方では、ともに金融機関に依頼することが最も多く、次に専門仲介機関への依頼が続きました。M&A仲介最大手の日本M&Aセンターが成約した2020年度の成約実績では、買い手が希望する同一都道府県かつ同業種のマッチングは全体の1割程度しかなく、他都道府県エリアかつ異業種が3分の1程度を占めたことから、マッチングが買い手意向よりも売り手の意向に近い結果となっていることが分かります。一般的に買い手は成長戦略のため、売り手は後継者不在による事業承継を目的とすることが多い傾向があります。M&Aを決断した中小企業の事例も多く紹介されています。経営者が自ら相手探しをしたケース、事業承継・引継ぎ支援センター経由で後継者を見つけた社長、取引先の地域金融機関に打診した事例などM&Aの形は十人十色でそれぞれに道が広がっています。

数字に表れるM&Aの効果

M&Aが企業を成長させる根拠がデータに表れています。東京商工リサーチがまとめた「企業情報ファイル再編加工」によると、M&A実施企業と非実施企業を比べた場合、売上高成長率(中央値)と営業利益成長率(同)のいずれもM&A実施企業が非実施企業を上回る数字が出ています。特に営業利益成長率では非実施企業の中央値がマイナスとなるなか、M&A実施企業はプラス成長で大きな違いがありました。結果的にM&A実施の有無と売上高成長率、営業利益成長率との間には相関関係があり、M&Aが営業利益率の向上に大きく貢献している可能性があると紹介されています。

M&Aで危機を乗り越える

事業承継やM&Aを行い、新たな取り組みにチャレンジする中小企業が数多くあります。事業承継は企業の成長と発展のためにも重要です。事業承継の手段であるM&Aのイメージも改善し、多くの中小企業の経営者がM&Aの道を選んでいます。会社の明るい未来を築き、コロナ禍という昨今の危機を乗り越える力として、M&Aが今注目されています。

2021年版「中小企業白書」はこちら

著者

M&A マガジン編集部

M&A   マガジン編集部

日本M&Aセンター

M&Aマガジンは「M&A・事業承継に関する情報を、正しく・わかりやすく発信するメディア」です。中堅・中小企業経営者の課題に寄り添い、価値あるコンテンツをお届けしていきます。

この記事に関連するタグ

「事業譲渡・M&A」に関連するコラム

買収とは?合併やM&Aとの違い、種類、プロセスを解説

M&A全般
買収とは?合併やM&Aとの違い、種類、プロセスを解説

買収は、企業の成長や事業承継の手法として広く活用されています。売り手側にも買い手側にもメリットがある一方で、リスクもあるため注意が必要です。本記事では、買収と合併、M&Aの違いをはじめ、買収の種類やプロセスをわかりやすく解説します。この記事のポイント買収とは、対象企業の事業や経営権を取得することで、「事業買収」と「企業買収」に分けられる。買収には「友好的買収」と「同意なき買収」があり、一般的に中小

事業売却とは?会社売却との違いやメリット・デメリット、税金について解説

M&A全般
事業売却とは?会社売却との違いやメリット・デメリット、税金について解説

事業売却は、企業が特定の事業部門や資産を他の企業に譲渡するプロセスであり、戦略的な再編成や資金調達の手段として広く利用されています。この手法は、企業が不採算部門を整理し、主力事業へ経営資源を集中するなど、事業戦略の見直しを行う場面で活用されます。本記事では、事業売却のメリットやデメリット、手続きについてご紹介します。この記事のポイント事業売却の目的は資金調達、事業ポートフォリオの見直し、事業承継な

会社売却後どうなる?会社、社長、社員への影響を解説

M&A全般
会社売却後どうなる?会社、社長、社員への影響を解説

中小企業のオーナー経営者が会社売却を検討する際「売却した後、関係者に与える影響が一番気がかり」と考える人は少なくありません。本記事では、中小企業が会社売却をおこなう際、会社関係者、取引先などそれぞれのステークホルダーに与える影響、メリット、注意点についてご紹介します。M&Aのプロに、まずは相談してみませんか?日本M&Aセンターは、ご相談からM&Aの成約まで、経験豊富なM&Aのプロが丁寧にサポートい

「成功事例として社会に語られるM&Aにしたい」 夢と未来をつなぐM&A成約式

広報室だより
「成功事例として社会に語られるM&Aにしたい」 夢と未来をつなぐM&A成約式

テック企業の未来とベンチャー企業の夢が結ばれました。特許技術を誇るWEBプッシュ通知サービス「COINs」を手掛ける株式会社シグニティ(東京都台東区)とIT支援や営業代行など多角化経営で成長する株式会社Road(東京都江東区)がM&Aを締結しました。「令和を代表する企業を創る」との目標を掲げるRoadはベストベンチャー100にも選ばれており、経営者は平成生まれで若さと勢いがある企業です。テレビ局や

25社譲受して成長するハシダ技研工業の「M&Aは人助け」の凄み

広報室だより
25社譲受して成長するハシダ技研工業の「M&Aは人助け」の凄み

「M&Aは人助け」を信条に2008年から2022年までの間、買い手企業として計25社を譲受した大阪市のハシダ技研工業株式会社。火力発電所に使用されるガスタービン部品は高い技術力から、ゼネラル・エレクトリック(GE)社や三菱重工業など名だたる企業を取引先に持ち、自動ドアの自社ブランドも好調な製造業のグループ企業です。後継者のいない製造業を譲り受けながら成長を果たしています。事業はグループ売上高200

全国金融機関初!沖縄銀行が企業評価システム「V COMPASS」を導入

企業評価
全国金融機関初!沖縄銀行が企業評価システム「V COMPASS」を導入

企業の後継者不在問題が深刻な沖縄県。帝国データバンクの調査によると、沖縄県の後継者不在率の高さは2011年から2020年まで全国1位、2021年は全国2位となり、2011年の調査開始から一貫して後継者不在率が70%を超えています。こうした状況を受け、同県を拠点とする沖縄銀行ではM&Aや事業承継のサポート体制の強化を進めています。その一環としてこのたび、日本M&Aセンターホールディングスグループ会社

「事業譲渡・M&A」に関連する学ぶコンテンツ

「事業譲渡・M&A」に関連するM&Aニュース

SM ENTERTAINMENT JAPAN、放送事業の譲渡に向けAppBankと基本合意

株式会社SMENTERTAINMENTJAPAN(4772)は、同社が行う放送事業(以下:対象事業)について、AppBank株式会社(6177)との間で事業譲渡に向けた基本合意書を締結することを決定した。SMENTERTAINMENTJAPANは、エンターテインメント事業、ライツ&メディア事業を行っている。AppBankは、IP&コマース事業、メディア事業を行っている。背景・目的SMENTERTA

エフティグループ、会社分割によりLED販売等に係る事業を子会社のFTコミュニケーションズへ承継

株式会社エフティグループ(2763)は、同社のLED販売等に係る事業を会社分割し、連結子会社である株式会社FTコミュニケーションズ(東京都中央区)に承継させることを決定した。エフティグループを分割会社とし、FTコミュニケーションズを承継会社とする簡易吸収分割方式。エフティグループは、情報通信機器等の企画・販売・保守、グループ会社管理を行っている。FTコミュニケーションズは、情報通信機器等の販売、各

メディエア、Story&Eurekaからスマホカメラ用フィルターブランド「THE emo(ジエモ)」の企画/運営/販売する事業を譲受

メディエア株式会社(199A)は、Story&Eureka株式会社(東京都中央区)が行うスマホカメラ用フィルターブランド「THEemo(ジエモ)」の企画/運営/販売する事業を譲り受けることを決定した。メディエアは、EC支援サービス(クライアントのEC事業を支援)、D2C販売(メディエアの販売サイトで商品販売)を展開している。Story&Eurekaは、スマホカメラ用フィルターブランド「THEemo

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース